未分割での不動産収入は、共同相続人が各自で所得税の申告をする

遺産分割協議が整わない。

でも、その間にも被相続人(故人)の不動産から賃貸収入が入ってくる。

この場合の賃貸料収入はどうなるのか?

未分割状態の収入は?
未分割状態の収入は?
まだ誰が相続するか決まっていない不動産からの収入はどうなるの?

結論をいいますと、法定相続分、もしくは遺言による指定相続分がある場合にはその指定相続分に応じて、各共同相続人がそれぞれ賃貸料収入の所得税の申告納付をします。

これは仮に被相続人の死後、相続人の一人だけが、その賃貸不動産を管理していたとしても同じです。

遺産が未分割である以上、その相続人一人だけが所得税の申告納付をすれば済む、ということにはなりません。

分割確定しても「更正の請求」や「修正申告」はできない

遺産分割協議が整い分割が確定しても、その効果は未分割期間中の所得の帰属に影響を及ぼしません。

簡単にいいますと、分割が確定しても、更正の請求や修正申告をすることが出来ません。

民法上では分割協議が確定した後に、各相続人に帰属した財産は、相続開始時に遡るとされています。

ただ、未分割の賃貸不動産から生じる賃貸料収入の債権は、相続財産とは別の財産となります。

なので、未分割状態で行われた確定申告に係る相続分とは、異なる相続分で遺産分割協議が確定しても、当該未分割の賃貸不動産に係る賃貸料収入については、既に確定済みとなっており、更正の請求や修正申告は出来ません。

申告できない
申告できない
未分割の賃貸不動産から生じる賃貸料収入についての更正の請求や修正申告は出来ません。

なお、遺産分割確定後の賃貸料収入は、賃貸不動産を相続することとなった相続人が確定申告をします。

事業的規模の判定

不動産賃貸業には、それが事業的規模かどうか?という概念があります。

事業的規模に該当すると控除額が多くなるなど、事業的規模か?否か?で税額が変わってきます。

事業的規模の判定には【5棟10室】といわれる基準があります。

これはアパートなどは貸付できる室数が10以上、家屋の貸付の場合は、おおむね5棟以上というものです。

では、未分割の賃貸不動産の事業的規模の判定はどうするのか?

仮に10室あるアパートの賃貸不動産で、相続人が2人の場合、相続人一人あたりでは5室の計算となります。

そうなると、この相続人は事業的規模としての申告は出来ないのか?

結論をいいますと、この場合、事業的規模として申告します。

未分割である不動産の事業的規模の判定は、法定相続分で按分した室数や棟数ではなく、【共有持ち分を合計】した形で判断します。

合計で判断
合計で判断
事業的規模かどうかの判断は、法定相続分で按分した室数や棟数ではなく、共有持ち分を合計した形で判断

動画で解説

遺産分割が完了していない状態で生じる不動産収入の申告について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。

遺産分割が未完了の時の不動産収入の申告は?

動画内容

アパートやマンションの賃貸経営をしている人が亡くなった場合、相続が発生したあとも家賃が発生します。

相続後の家賃は、アパートやマンションを相続した人の収入になりますので、不動産所得の確定申告が必要になります。

しかし、相続人が複数いる場合、誰がアパートやマンションを相続するかは、すぐには決められません。

全員で遺産分割をして決める必要があるからです。

では、誰が相続するか決まっていないアパートやマンションから入る家賃は、誰が確定申告をするのでしょうか。

答えは、相続人全員です。

遺産分割前の財産は、全員の共有状態となりますので、それぞれの法定相続分で、家賃を分けて申告します。

たとえば令和3年中、相続が発生した後に、200万円の家賃が入ったとします。

相続人は長男・次男の2人とします。

もし令和3年中に、アパートやマンションの遺産分割ができなかった場合、2人は、それぞれ100万円の賃貸収入を確定申告して、それに応じた所得税を納税します。

たとえ、長男しかアパートの管理をしていなかったとしても、長男1人で200万円を申告することはできません。

では、令和4年4月になってアパートやマンションの遺産分割が終わり、すべて長男が相続したとします。

この場合、令和3年の確定申告を、長男や次男はやり直せるのでしょうか。

つまり、令和3年中の家賃もすべて長男のものだったとして、修正申告や更正の請求ができるのか、ということです。

結論をいうと、令和3年の不動産所得のやり直しはできません。

民法では、遺産分割が確定すると、各相続人の物になった財産は、相続開始のときにさかのぼって最初から相続していたという扱いになります。

しかし、家賃はあくまで相続後に発生したものですから、相続財産とは異なります。

そのため、さかのぼって長男の収入とすることはできません。

ただ、悪いことばかりでもありません。

不動産所得の申告には、事業的規模の判定があります。

事業的規模の貸付と判定されれば、税金の計算上、有利な特典が得られます。

事業的規模かどうかは、一般的に、家屋であれば5棟、アパートであれば、10室以上の貸付けの規模があるかで判定します。

この判定は、たとえ2人で申告する場合でも、不動産の共有持分を合計して判定できます。

たとえば、もし貸付けている部屋が10室のみでも、長男も10室、次男も10室で判定できるということです。

事業的規模の特典はさまざまですが、大きいものは青色申告特別控除です。

ただし、これは青色申告の承認申請をしなければ受けられません。

相続によって引き継いだ事業は、青色申告の承認申請の提出期限が通常と異なりますので注意してください。