相続開始時点に未完成の事業用建物は原則「小規模宅地等の適用は不可」
事業用建物を建築中に、被相続人が死亡した場合、小規模宅地等の適用を受けることが出来るのかどうか?について、解説しています。
新規開業のための建築中の場合は適用不可
人生100年とも言われる時代。
会社を定年退職してから、起業される方も珍しくありません。
起業に向けて建物を建築していた。
そんな矢先、残念ながら亡くなってしまった。
このようなケースは、今後増えてくるのかもしれません。
そして、残念ながら被相続人の新規開業の準備のために事業用建物を建築しており、その最中に被相続人が死亡した場合には、その敷地は小規模宅地等の特例の適用を受けることは出来ません。
相続開始の直前において、事業の用に供されていないためです。
その建物が完成した後に、息子や娘さん(相続人)が親の意思を引き継ぎ、事業を開始した場合はどうなるか?
残念ながら相続人が事業用建物の完成後に、その事業を開始した場合であっても同様です。
最大で土地の評価額を「8割減額できる」小規模宅地等の特例は適用できません。
被相続人等の事業用宅地等に該当するためには、相続開始の直前において、事業の用に供していることが条件としてあります。
新規開業のための建築中の場合には、これを満たすことが出来ないため、どうしても小規模宅地等の特例の適用が出来ません。
事業継続中の建替えであれば、条件を満たせば適用できる
新規開業のための建築中の場合は適用不可ですが、事業を既にしており建物の建替えをする場合で、以下の条件を全て満たす場合には、小規模宅地等の特例の適用は可能です。
- 事業場の移転や建替えのために、被相続人等の事業の用に供されていた建物を取壊した(もしくは譲渡した)
- 建築中の建物が、上記1の代わりとなる建物であること
- 建築中の建物が、被相続人又は被相続人の親族の所有である
- その建築中の建物が、速やかにその事業の用に供することが確実であったと認められる
- 次のいずれかに該当する者が、相続税の申告期限までに自己の事業の用に供している
- 5-1.被相続人と生計を一にしていた親族
- 5-2.建築中の建物(もしくはその敷地)を相続又は遺贈により取得した被相続人の親族
また、例えばお店(建物)の半分を居住用に建て替えている最中に、被相続人が亡くなった。
このような場合には、半分(50%)が被相続人等の事業用宅地等として対象になってきます。
ちなみに、半分(50%)を居住用ではなく、賃貸用として貸し付け、相続税の申告期限まで賃貸を継続している場合には、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例の対象となります。
動画で解説
事業用建物の建築中に死亡した場合、小規模宅地等の適用は可能なのか?ということについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
小規模宅地等の特例とは、亡くなった人が所有していた宅地を親族が相続するときに、一定の要件を満たすことで、使える相続税の特例です。
この特例の対象になる土地の一つに、亡くなった人などの事業に使っていた土地、というものがあります。
典型的なケースは、自分の土地にお店や事務所を建てて、事業を行っている人が亡くなる、というものです。
この場合、小規模宅地等の特例の条件を満たすことができれば、土地の400㎡までの部分の評価額を80%も減額することができます。
5,000万円の土地を1,000万円の土地として相続できる、ということです。
使うと使わないとでは、相続税の額に大きな差がでます。
ではもし、新しい事業を始める準備のために、お店を建築している最中に残念ながら亡くなってしまった場合、あるいは、お店を建て替えている途中で亡くなってしまった場合、小規模宅地等の特例は使えるのでしょうか。
まず、お店をこれから始めるために建築をしているケースでは、残念ながら適用できません。
特例を使うための条件の1つに、相続開始の直前に、その宅地を事業に使っていなければならない、というものがあるからです。
まだ、事業を始めていない宅地は、対象外となります。
たとえ親族が引き継いで、建物を完成させて事業を開始しても使えません。
では、建替え中の場合はどうでしょうか。
この場合は、次の条件をすべて満たす場合のみ、小規模宅地等の特例を使ってよい、とされています。
条件は全部で5つあります。
一つ目は、事業の場所の移転や建替えのために、建物を取り壊したり、売却したりした場合であること。
二つ目は、建築中の建物が、それまでの事業の代わりとなる建物であること。
三つ目は、建築中の建物が、亡くなった人かその親族の名義であること。
四つ目、建築中の建物が、速やかにその事業に使われることが確実であったと認められること。
五つ目は、亡くなった人と同じ生計の親族か、建築中の建物を相続や遺贈によって取得した親族が、相続税の申告期限までに自分の事業の用に使っていること。
以上の5つとなります。
ポイントは、生前から行っていた事業を続けるための建て替えである、ということにあります。
最後に、お店の半分を住宅用に建て替えている最中に亡くなった場合は、どうなるのでしょうか。
この場合は、土地の半分が特例の対象となります。