【会社設立で相続税対策】を行う方法やメリット・デメリット

被相続人の生前中に会社を設立し、被相続人の財産を「推定相続人に分散」する相続税対策について、解説しています。

会社設立で贈与ではなく給与という形で財産の分散を図る

通常、親から子へといった個人間での資産の移転には、

  • 相続
  • 贈与
  • 売買

という方法となります。

もちろん、それぞれに税金が課せられます。

相続税なら相続税、贈与税なら贈与税、売買なら所得税といった具合です。

では、仮に親が株式会社を設立し、親の個人資産のほとんどが株式会社のものになった場合(資産を自社株式に変えた場合)は、いかがでしようか?

そうなると、子供への財産移転がその会社の株式や、その会社の給与からという形なります。

これは相続税対策として有効です。

なぜか?

会社設立
会社設立
子供への財産移転がその会社の株式や、その会社の給与からという形なります。

会社から給与をもらうという形にすれば、給与収入という形になり、給与所得控除が使えます。
(給与所得控除の詳しい内容は、国税庁HPの給与所得控除に記載されています。)

親自身も会社から給与という形をとり、子供にも会社の役員や社員などにして給与を払う。

そうなると、親自身は所得税の圧縮になり、子供には給与という形で、生前贈与をしているのと同じ効果があります。

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同じ生前贈与でも、単に贈与で財産を移転するのと、給与という形で財産を移転するのでは、負担する税金は給与という形の方が安くなります。

また、会社にすれば、相続財産は株式の評価額で相続することになります。

この株式は、簡単に言えば、会社の財務状況などが良ければ高くなり、良くなければ低くなります。

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取引相場のない株式評価方法

会社の株式が高くて相続税が高くなりそうな場合には、会社として経費をたくさん使えば、その分相続税は安くなることになります。

要は会社の株式の評価額の場合には、土地や建物などに比べて、比較的評価額の調整がしやすいということです。

評価
評価
会社の株式の評価額は、土地や建物などに比べて調整がしやすい

どうすれば、資産を会社に移せるのか?

不動産の賃貸などを個人で営んでいる場合であれば、株式会社を設立して、その不動産をその会社に売却します。
(もちろん、売却益がでれば所得税がかかってきます。)

売却代金相当額を出資して会社を設立し、その資金で(個人名義の)不動産を購入するということです。

売却した不動産は会社名義のものとなります。

そうなると、不動産という資産が、その不動産を所有している会社の株式の評価額(取引相場のない株式)に化けます。

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会社設立のメリット・デメリット

会社設立をして相続税対策をする。

いわゆる株式の評価を通じて、相続税対策をすることにはメリットもありますが、デメリットもあります。

会社設立での相続税対策のメリット

  • 不動産所得や事業所得より、法人からの給与所得の方が所得税などの税金が安い(給与所得控除があるため)
  • 親族を役員とすることで、役員報酬や退職金の支給が可能(贈与ではく、給与などの形で財産を移転できる)

会社設立での相続税対策のデメリット

  • 設立費用や設立手続き、毎年の税務申告等手続きが増える
  • 赤字でも毎年、均等割という税金を払わなくてはいけない
  • 社会保険の加入義務が発生する

また、個人から会社に不動産を売却する際、登録免許税や登記費用、不動産取得税、建物の場合はさらに消費税、売却益が出た場合には所得税がかかります。

不動産売買
不動産売買
不動産の売買には、さまざまな費用がかかります。

このように、株式会社を設立して相続税対策をする場合には、相続税や贈与税はもちろん、所得税、法人税、消費税、登録免許税や不動産取得税、諸々手数料なども考慮する必要があります。

メリットも多いですが、様々なことを考慮する必要があり、何かと大変なのも事実です。

会社設立で生命保険金の非課税枠を2倍にする

死亡保険金については、法定相続人1人につき500万円まで非課税です。

例えば、相続人が配偶者と子ども2人の場合、1,500万円(500万円×3人)までは相続税がかからないということです。

そして、会社を設立すると、実質的に生命保険金の非課税枠を2倍にすることが出来ます。

2倍
2倍
実質的に生命保険金の非課税枠を2倍にすることが可能

どういうことかと言いますと、生命保険金と同じように、死亡退職金についても相続人1人につき500万円まで非課税です。

この「死亡退職金」をうまく使います。

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生命保険は相続税対策はもちろん争続防止や納税資金にも効果あり死亡退職金や弔慰金の相続税評価

会社を設立し、個人が受取人となる生命保険と会社が受取人となる生命保険に加入します。

そして実際に被相続人が亡くなった際には、個人と会社に生命保険金額がおります。

個人に支払われる生命保険は生命保険金の非課税枠が使え、会社に支払われる生命保険は、それを原資として死亡退職金として支払います。

そうすれば死亡退職金として、死亡退職金の非課税枠が使えます。

生命保険の受取人を個人と会社に分散すれば、

  1. 生命保険金の非課税枠
  2. 死亡保険金の非課税枠

の2つが使えることになります。

そして、生命保険金と死亡保険金の非課税枠は同じなので、【実質2倍の生命保険金の非課税枠が使える】ということです。

法人成りして土地建物の相続税評価額を下げる

もしも、土地建物を所有していて、そこで個人事業を営んでいる場合には、個人事業を法人化(いわゆる法人成り)し、「その法人に建物を貸し付ける」という形にすると、相続税の節税につながります。

「法人の代表」と「土地建物の所有者」が、同一でも問題ありません。

あくまでも、法人は別の人格扱いとなります。

まず、法人に貸し付けることにより、建物の相続税評価額は3割下がります。

詳しくは、自宅や賃貸ビルなどの建物の相続税評価に記載していますが、貸している建物(いわゆる貸家)の評価方法は、自分で使っているとした場合の評価額額から、借家権の価額を控除した金額となります。

そして、借家権の価額は、自分で使っているとした場合の評価額額に、借家権割合を掛けた金額となります。

この借家権割合が、ほとんどの地域で30%であるため、建物の相続税評価額が3割下がることになります。

また、土地は「貸家建付地」という扱いになり、概ね2割前後の評価減が見込めます。

詳しくは、自用地・貸家建付地・貸宅地の相続税評価に記載しています。

会社設立を利用した相続税対策を動画で解説

会社設立を利用した、相続税対策について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。

会社設立による相続税対策

動画内容

通常、親から子に財産を移転するときは、それが贈与であれば贈与税、相続であれば相続税、売買という形をとれば、所得税がかかります。

これらの税負担を軽減するための方法として、親が会社を設立し、親の個人資産を会社名義にする、という方法があります。

会社名義にした財産は、お子さんなどを役員にすることで、給与として、お子さんらに支払うことができます。

給与として受け取ったお金にも、所得税はかかりますが、給与の場合は、給与所得控除を差し引いた、残りの金額しか、所得税の対象になりません。

つまり、給与として会社から個人にお金を支払えば、支払う度に、給与所得控除額の分だけ、非課税で渡しているのと、同じことになります。

給与
給与
給与所得控除額の分だけ、非課税で渡しているのと同じ

では、会社を設立して、相続が発生したとき、会社にある財産はどうなるのか?というと、株式の評価額で、遺族などが相続することとなります。

株式の評価額は、会社の財務状況がよければ高くなり、よくなければ、低くなります。

もし、株式の評価額が高ければ、経費を沢山使って、利益を減らすことにより、評価を低くすることも可能です。

では、どのようにして、個人名義の資産を会社名義に移すか?

というと、たとえば、個人で営む不動産賃貸業を会社にする場合は、個人名義の賃貸用不動産を、個人から会社に売却する、という形をとります。

売却代金に相当する資金を出資して会社を設立し、その資金を不動産の買い取りに充てる、という流れで行うとよいでしょう。

それから、会社を設立したときに、ぜひ活用していただきたい節税策が、死亡退職金です。

死亡退職金として、会社から遺族に支払われた金額は、500万円に法定相続人の数をかけた金額まで、相続税が非課税になります。

おすすめしたいのは、会社が受取人となる生命保険に加入し、会社が受け取った保険金を、死亡退職金として、遺族に支給する、という方法です。

生命保険を使った相続税対策には、個人で加入する生命保険金の非課税額を使ったものが、よく知られていますが、この死亡退職金の非課税額は、個人の生命保険金の非課税額と、併用することができます。

つまり、会社と個人の両方で、生命保険に加入しておけば、保険金の非課税額を2倍にできる、ということです。

ここまで聞くと、会社の設立にはメリットしかないように思えますが、デメリットもあります。

まず、会社を設立するには、設立費用がかかります。

また、個人から会社に不動産を売却するのであれば、不動産売買にともなって、登録免許税や登記費用、不動産取得税、建物の価格に対する消費税もかかります。

また、会社を設立すると、毎年、法人税、法人事業税、法人住民税の税務申告が必要です。

さらに税金については、たとえ赤字でも、法人住民税の均等割を支払わなければなりません。

税金だけでなく、社会保険の加入義務も発生するため、毎月の保険料の支払いも発生します。

こうしたデメリットもあることから、相続税対策としての会社設立は、設立や運営にかかる費用と、節税できる金額をよく比較した上で、判断しなくてはなりません。

会社設立による相続税対策は、相続の専門家に相談しましょう。